アニメは人を救うのか?『アニメ療法(セラピー)』感想

書籍レビュー

日本のアニメを視聴することで、精神的な問題の改善を期待する「アニメ療法(セラピー)」。物語が持つ力とは何か。興味深い本でした。

今回読んだ本はこちらです。

『アニメ療法(セラピー)』
パントー・フランチェスコ (著)
光文社

『アニメ療法(セラピー)』とは

「アニメ療法(セラピー)」とは、心理療法の「物語(ナラティヴ)セラピー」に着想を得て、著書のパントー・フランチェスコさんが提唱している療法です。

「物語セラピー」自体、1980年代から提唱されている新しい療法です。簡単に説明すると、物語に感情移入することで、自分自身の問題を解決に導くポジティブな変化を期待する療法といったところでしょうか。

この「物語セラピー」に、日本の「アニメ」が適していると感じた著者が「アニメセラピー」について解説しています。

パントー・フランチェスコさんはイタリアの方ですが、来日され、日本の精神科医として活躍されています。アニメが「人の心を癒す」ことに着目した医学的見地からの解説は、私自身の体験からも非常に共感できるものでした。

この本を読んで、私がこれまでアニメや小説など物語を考察することを繰り返してきたのは、趣味というよりも、自分自身を治療するためだったのだと気づきました。

消耗する精神を物語によって修復し、体をメンテナンスするように心をメンテナンスしていたようです。

また、精神的なメリットだけでなく、身体的な影響についての興味深いデータが紹介されています。心の健康と体の健康が密接な関係にあることが分かります。

世界中で物語が作られ続けてきたことには、娯楽以外の目的があったのではないのか、人は物語に「精神消耗の回復」を無意識に求めていたのかもしれない、そう感じる本でした。

手軽であることの意味

物語セラピーは、映画やドラマなど物語を視聴したあと、セラピストや一緒に視聴した家族と対話をするなどの方法をとります。しかし、さまざまな方法があり、現在も発展途中の療法です。

とはいえ、セラピーの基本は「物語を視聴」すること、そこから自発的な変化を期待することです。無理がない療法だといえます。

そのため著者は「アニメセラピー」が手軽であると言及しています。私も、ひとりで今すぐできる「アニメの視聴」は、緊急性が高い人に試して欲しいと思います。

起き上がる力もないほど打ちのめされた時も、アニメが流れ始めれば、その世界へ「没入」し喜怒哀楽を感じ、現実の苦痛から「遮断」される。

そして、苦しみから解放される。笑うことすらある。

そして、視聴後に現実を変えるための気づきがある。

人は、いつ心にダメージを負うか分からない。だから、必要なときにいつでも始められるアニメセラピーは、その手軽さに意味があると思います。

自殺は現実社会からの逃亡行為です。苦痛から逃れたい一心で、死の壁を越えてしまう。

でも、アニメなら死の壁を越えることなく、異世界へ逃亡できる。命を守るためにアニメの世界へ逃亡して欲しい。そして、そこで生きるために自己回復して、共に生きることに喜びを感じられるキャラクターを見つけることができれば、自分を変えることができる。

感情移入に適した作品

興味深いのは、アニメセラピーに適している作品についての話です。

フィクションの方がアニメセラピーのポイントとなる「感情移入」に適しているという内容でした。

確かに、架空の世界でのキャラクターの立ち位置、感情、選択に自分自身の状況を投影しながら視聴することは苦痛ではありませんが、直面している問題をリアルに描写したものだと、視聴すること自体が苦痛になってしまう可能性があります。

自分もキャラクターも3Dよりも2Dの方が親しみやすく、ノンフィクションよりもフィクション作品、ファンタジーや歴史作品を好んで選んでいました。心に負担が少ないのですね。

しかし、フィクションとはいえ、物語の中に矛盾が感じられると途端に現実に引き戻されてしまうので、アニメの構成や脚本、作画には高いクオリティが求められると感じます。

著者が、日本のアニメに注目したのは、そのフィクションとノンフィクションの中間にあるクオリティの高さ、感情移入のしやすさにあったのかなと思います。

また、現代でヒットする作品が、異世界や異能バトルであることは、多くの人が現実世界に問題を抱えていることを示唆しています。人気がある作品を分析すれば、現代社会の問題が浮き彫りになるといえるのではないでしょうか。

私は、常々流行する作品と人気キャラクターには、社会問題との関連性があると感じていました。話題となる作品の底流には、読者が抱える問題と求める人物像がある。

時代が求めるから、求められた作品やキャラクターが現れる。

『チ。ー地球の運動についてー』のヒットは、哲学的なテーマへの潜在的な関心があることを示しています。『出禁のモグラ』には、近年のいじめや他者からの圧力を多角的に描写しており、異彩を放っていました。

なろう系と呼ばれる作品の人気作に似た設定が多いのも、売れたものに類似した作品を作るというビジネスの定番的な側面もありますが、それが売れる理由は人間心理の底流にある欲求によると言えるのではないでしょうか。

時代への考察力を持つ人、時代に合った人物像を描ける作家が人気作を作っている。時代を感じて生きている人が、時代に合った物語やキャラクターを作る、感じる、具現化する。

時代と作品には関連性がある。キャラクターとそのキャラクターに求められる声優にも関連性がある。音楽も歌も景色も、エフェクトも、視聴者が深層心理で求めているものと一致したとき大きく拡散する。
つまり、物語と社会問題の一致は偶然ではない。話題作には、人気が出る理由がある。人間社会が物語を作っていると考えれば、その関連性を感じられると思います。

今後「アニメ」が娯楽ではなく「セラピー」としての役割を果たすとした場合、人生の質を高める作品が注目されるであろうことは想像に難くないですよね。

私は、そんな作品が増えて欲しいと願っています。

アニメ療法~心をケアするエンターテインメント (光文社新書 1235)

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