司馬遷『史記』の列伝を読む 第2回

書籍レビュー

列伝の第二は管仲と晏子。二人は斉の名宰相です。

名宰相・管仲

管仲(かんちゅう)は春秋時代の斉(せい)の宰相となった人です。若いころからの友人・鮑叔牙(ほうしゅくが)にその賢さを認められていました。鮑叔牙は、牢獄につながれていた不遇の管仲を斉の桓公に推薦。

宰相となった管仲は、海辺の小国だった斉を貿易や富国強兵の政策で強国へと変えました。

倉廩(倉庫)実ちて礼節を知り、衣食足って栄辱を知る。

小川環樹、今鷹真、福島義彦(2015)『史記列伝(一)』岩波書店 p.17

管仲の政策は、民衆に寄り添うものでした。どれほど素晴らしい理想を掲げても、国民が飢え、物が不足していたのでは、礼節も栄辱も心に響くことはありません。

管仲は、国の基盤である民の生活を強く豊かにする道を選び、斉の繁栄の基礎を築きました。

司馬遷の評価

司馬遷は管仲の「民が求めるものを与え、民が嫌うものを取り除くという道理にかなった政策、わざわいを幸福に変える手腕、失敗を成功の基とする力」について記し、評価しています。

そして、管仲亡き後、100年ほどして斉の国に晏子が登場します。

名宰相・晏子

晏子(あんし)は、斉の宰相として、霊公、荘公、景公に仕えました。才知に優れ、諫言を躊躇せず、国政の整備にも優れた手腕を発揮しています。

また、外交での機転の利いた受け答えなど、数々の逸話が残っていますが、「列伝」では言及されていません。

「列伝」には、晏子が牢につながれた人物の素質を見抜き牢から解放する話、御者の妻が夫を諫めた話を聞き、その御者を大夫に抜擢した話が記されています。

晏子の数ある逸話の中で、人材の素質を見抜いた話をピックアップしたことに、司馬遷の意図を感じます。

司馬遷の評価

晏子に対し、司馬遷は深い敬意を示しています。

晏子列伝を締めくくるにあたり、司馬遷は晏子と同じ時代に生きていたならば、晏子の御者になってでも仕えたいと記しました。

かりにもし晏子その人が、世にあったら、わたしはその鞭をとる身となっても、あおぎ慕うところである。

小川環樹、今鷹真、福島義彦(2015)『史記列伝(一)』岩波書店 p.20

人は、自分という存在を理解し、その能力にふさわしい仕事を与え、縦横無尽に活躍させてくれる人物を慕います。『史記』の「刺客伝」には、「士は己を知る者のために死す」という言葉が登場しますが、こちらも同じ思いを含んでいるといえます。

組織は適材適所に人物を配置することで、驚くほどの成果をもたらすとされており、近年は適性テストなども話題になっています。

しかし、無機質なテストよりも「君に頼みたい」という上司の信頼や人物の理解は、個人の力を発揮するきっかけとなるような気がします。

司馬遷は、列伝の第二に管仲、晏子を配置することで、組織の長が人物を理解することの重要性を示しているのかもしれません。

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